PERSON
古津軽を紡ぐ人
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人も温泉も温かい
その温かさと歴史・文化に浸って
癒されてほしい- 大鰐まちづくり笑社
- 相馬 康穫(そうま やすのり)氏
開湯は八百年以上前という湯の町「大鰐」。津軽の奥座敷として湯治客で賑わい、花柳街が栄えたまちは、時代とともに様相を変えましたが、その情緒は人々のくらしの中に生きています。長く大鰐の元気づくりに取り組む相馬康穫さんにお話を伺いました。
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- 大鰐は歴史ある温泉地で、昭和の頃まではたいそうな賑わいだったんですよね?
- 相馬さん :
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そう。江戸時代にはすでに、「温泉番付表」で熱海と並んで「行司」と紹介されるほどの別格で、明治に入ってからは大勢の湯治客で賑わい、大人の遊びができる花街になっていきました。私が子供の頃も、温泉宿から下駄をはいてスナックへ向かう「カランコロン」という音が騒がしくて眠れないほどでした。外はお店の灯で煌々と照らされていたんです。
その賑わいも昭和50年代半ばには聞こえなくなりましたが、今も大鰐には昭和レトロなスナックや喫茶店が健在で、古き良き温泉街の風情を醸し出しているんです。
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- 「大日様」として親しまれている神岡山大圓寺
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- 昭和レトロなスナック「あゆ」
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- お客さんがたくさん来ていたんですね!
- 相馬さん :
- やっぱり昔から観光客が来ているので、町の人たちは人馴れしている。すごいお歳のお婆ちゃんでも、道で観光客に逢えば「どっから来たあ」と普通に声をかける。おもてなしの精神なんですよ。町の中の人にも外から来た人にも、オープンで優しい。
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- 町全体におもてなしの精神が宿っているんですね。私も初めて大鰐に来たとき、なんだか家に帰ってきたかのような温かさを感じました。
- 相馬さん :
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町内には、近隣の子供の面倒を見たり、叱ってあげられる雰囲気が昔からあるんです。近所の子が一緒に夕ご飯を食べていたり、うちの祖母は近所の芸者さんの子をわが子同然に育てたんですよ。今でもそうだけど、朝起きたら玄関先に誰かが採ってきた山菜とかキノコとかが置いてあったりする。
山村部も集落全体が家族みたいな感じ。大鰐のそういうコミュニティって素晴らしい。これからも残していきたい宝物なんです。
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古き良き暮らしぶりを今に伝える町なんですね。
訪れる人にもそんな雰囲気を感じながら、ほっと一息ついて欲しいです。
- 相馬さん :
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せっかく大鰐を訪れたのに、温泉ホテルに泊まって、そこで完結してしまうのではいかにも残念。
街の中には日帰り温泉の「会館」が3つ残っていて、常連のお年寄りが毎日通ってきます。昔は会館の2階は寄合の場で、結婚式もそこで開いてたんです。温泉だけでなく地元の人と交流し、大鰐の歴史・文化に浸って帰ってほしい。そう思ってまちあるきガイドにも取り組んでます。
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- 懐かしい雰囲気に心もあたたまる。
公衆温泉「若松会館」
- 懐かしい雰囲気に心もあたたまる。
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- 「大鰐温泉もやし」の長さは約40cm。
シャキシャキとした歯触りと味わいが格別!
- 「大鰐温泉もやし」の長さは約40cm。
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- 歴史ある町だから、きっと伝えたいことがいっぱいありますよね。
- 相馬さん :
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そう。温泉を使った伝統野菜の「大鰐温泉もやし」や、日本で唯一の「温泉醸造」という製法で造る味噌など、この町はほんとに奥が深い。
まちあるきガイドをやるとなると、まず、案内をする自分たちが町のことを知らないといけない。歴史を掘り起こし、年配の歴史に詳しい人たちを訪ね歩いたけれど、言うことが少しずつ違う。どれが本当か分からないところがミステリー(笑)。ミステリーといえば「大鰐」の町名もそう。日本でただ一つ「鰐」がつく町で、由来は定かではない。はっきりと分からないところは、「かも知れない」と言いながら様々織り交ぜながら話して歩くんだけれど、逆に面白いかも知れないね。うん。
この温泉文化が息づく大鰐に興味を持ち、また訪れたいと思ってくれたらありがたい。
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- 最後に、大鰐の元気のために、これから取り組みたいと思っていることを教えてください。
- 相馬さん :
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大鰐温泉もやしをこの地から輸出するのが目標なんです。大鰐温泉もやしは湯治に来たお殿様に献上していたと言われ、約四百年も前から栽培されていたそうです。温泉熱を利用した土耕栽培で、一子相伝で守られてきた貴重なものですが、江戸時代から続く農家さんは一軒だけという状態になってしまったんです。このまま途絶えてしまうのは惜しいので、行政と連携し、生産者の育成と販路開拓に取り組んできました。冬野菜だったもやしの通年栽培にもチャレンジし、夏場にもだいぶ採れるようになってきました。
次は、海外の人にも大鰐温泉もやしを知って、食べてもらうこと!もやしが有名になることで「大鰐」がブランド化し、もやしを食べるために海外から大鰐に観光客がやってくる。そうなれば面白いじゃないですか!