古津軽を紡ぐ人
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ねぷたのおかげで
『けやぐの輪』ができた。
自分を支えてくれる人を
大事にすること、伝統をつなぐことが、
師匠へのせめてもの恩返し。- 津軽伝統ねぷた絵師
- 八嶋 龍仙(やしま りゅうせん)氏
国の重要無形民俗文化財に指定されている弘前ねぷたまつり。津軽の夏を彩り、人々の心を揺さぶるねぷた絵は、力強さと躍動感に溢れています。日本画家・仏画師であり、弘前ねぷた絵の第一人者でもある八嶋龍仙さんにお話を伺いました。
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- 今日は八嶋さんにお会いできて光栄です!わたしは小さい頃からねぷたまつりが大好きで、八嶋さんのねぷた絵を見て育ちました!
- 八嶋さん :
- それはよかった。わたしもあなたも「ねぷたの病(やまい)」だね(笑)。わたしも小さい時からねぷたまつりが大好きで、まだ小さくて最後まで歩けないのに、親にせがんで連れて行ってもらってたよ。その病(ねぷた好き)が高じて、今はこうして絵を描いているけどね。
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- 八嶋さんは絵を描くことも子どもの頃からお好きだったそうですが、その頃からねぷた絵を描かれていたのですか?
- 八嶋さん :
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子どもの時から好きで描いてたねぇ。
22歳で石澤龍峡師匠についてからは日本画や仏画が中心だったけれど、29歳(昭和50年)に初めてねぷたを1台描かせてもらって、次の年に13台、4年目は23台も描かせていただいた!おかげ様でたくさんの方々に出会うことができたんだよ。ねぷたを作るには大工仕事も必要だから、大工の友達もできたりして「けやぐ(友達)の輪」ができた。
わたしは自分からは求めないけど、自然と周りの人に恵まれて今があるんだなぁ。
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「けやぐの輪」って、いいですね!八嶋さんの温かいお人柄に、自然と人が集まってくるのだと思います。
石澤龍峡さんは、力強く豪快な筆使いの「行書体ねぷた」の名絵師と称される方ですね。
- 八嶋さん :
- 師匠からはいつも「欲もてばまねよ(だめだよ)」と言われていたよ。上手な絵を描こうとすればするほど、自分の絵でなくなるんだな。「お前は絵を描きたんだが(描きたいのか)、それとも賞とりたいんだが(とりたいのか)」って師匠から問われて、あらためて「あぁ、自分は絵を描きたいんだな」と思って師匠から教えてもらうことになったんだ。
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- 石澤師匠との思い出で特に心に残っていることはありますか?
- 八嶋さん :
- 初めて師匠が下絵なしでいきなり太い筆でねぷた絵を描くのを見た時に、白い紙の上に墨がぽたっとこぼれたのさ。わたしは心の中で「あーっ!」ってびっくりしてしまって、「どうするんだべ(こぼれてしまった墨をどうするんだろう)」と思っていたけど、師匠がまたさっと筆を走らせたら、こぼれた墨の跡がきれいになくなったの!鮮やかな筆使いと大胆さで感動したなぁ。
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- 八嶋さんも石澤師匠の手法を引き継いで下絵なしで描いていらっしゃるそうですね。ねぷたまつりで拝見する八嶋さんの絵は、迫力と躍動感が伝わってきて「じゃわめぎ」ます!
- 八嶋さん :
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下絵を描いてしまうと、そこからはみ出すことができなくなってしまう。絵を描くために歴史の本をたくさん読んで勉強するでしょ?すると、わたしの場合、絵を描くときに頭の中に場面が浮かんでくるんだよね。そのイメージを絵にする。誰の真似でもない、自分の感性。
師匠からは「伝統をつなぐこと」を頼まれた。だから、師匠の教えや考え方を柱にして、ぶれないように絵の心を伝えていきたい。それが師匠へのせめてもの恩返しだと思っている。
家族や仲間、運行に関わる人たち、自分を支えてくれる人を大事にしなさいって教えられた。
師匠はね、わたしが師匠のところから帰るとき、わたしの姿が見えなくなるまで見送ってくれる温かい人だったよ。
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- 八嶋龍仙作ねぷた絵(平成3年)
(出展:弘前大学出版会「津軽の華」)
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- 愛用の筆を手に師匠の思い出を語る八嶋さん
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- 八嶋さんは、ボランティアで小学校に出向いて子どもたちにお話をされているそうですが、わたしの小学校にも来ていただきたかったです!
- 八嶋さん :
- 子どもたちにはね、わたしがそうだったように、ねぷたを通じて友達との和の大切さを知ってほしい。ねぷた絵のほかに童や仏の絵を描いているのは、「童心」も「仏心」もどちらも「穢れ(けがれ)がない」から。童の絵から、人とのつながりや優しさを感じとってもらえればいいな。子どもたちが書いてくれた感想文からたくさん元気をもらっているんだよ。
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- 子どもたちからの感想文
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- ねぷた絵と対照的な優しい童の絵(絵馬)
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- とても素敵な贈り物ですね!八嶋さんは、伝統のねぷた絵を次世代に伝えるために「ねぷた絵のアートタイツ」制作に協力するなど新しいことにもチャレンジされていますね。
- 八嶋さん :
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誰もやらないことをやる、というのがわたしの考え。
例えば、ねぷた絵を描くときに紙の下にカーペットを敷く(墨で濡れた紙が下にくっつかないようにする工夫)というやり方はわたしが考えたものだけど、今はそれが制作現場で当たり前になっている。そうやって自分で工夫して新しいことを考えてみる、枠にはまらないのが大事なんだと思うよ。
わたしが考えたことや技術は何でも門下生に教えるし、門下生にも自分で考えて活躍してもらいたい。門下生が活躍するということは、わたしの活躍の場が少なくなるということだけど、それはそれで「負けてられないぞ!」と逆に元気をもらえる。
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- そういうお気持ちが八嶋さんの若さの秘訣かもしれませんね!熱烈なファンとしては、八嶋さんにこれからもたくさんのねぷた絵を描いていただきたいです。最後に一言お願いします。
- 八嶋さん :
- ファンの皆さんにはもちろんだけど、妻にも感謝だなぁ。若い時から今まで、ねぷた絵を何百台分も描いてこられたのは、妻がわたしよりも頑張って支えてくれたから。頭が上がらないよ(笑)。
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- ねぷた絵アートタイツ
(写真:弘前BRICK株式会社提供)
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- 『岩木山に棲む』展にて