古津軽 古津軽

KOTSUGARUPERSON

古津軽を紡ぐ人

  • お客さんの作品の『器』のような
    存在になりたい。組子の木みたいに
    人と人も、組み合わさっていいものが
    できるんだよね。

    津軽傳統組子職人
    齊藤 正美氏

平成28年にオープンした「津軽傳統組子館」には、津軽の建具職人が継承してきた技術を駆使した組子作品が200点以上展示されています。建具職人として文化財修復などに携わる傍ら、組子作品の制作や体験活動を行っている組子職人の齊藤正美さんからお話を伺いました。

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「組子」は飛鳥時代から続く技術で、あの法隆寺にも使われているくらい歴史があると聞きましたが、齊藤さんの作品は、独創的なデザインでとってもお洒落ですね!
齊藤さん :
昔はね、お寺だけではなく普通の家にも和室があったけど、平成に入った頃からは洋風の家が増えて、組子細工の欄間や障子が使われなくなってしまった。昔の日本の家にはゆったりとした畳の和室があって、冠婚葬祭があると人々が集まることができた。今は既製品が溢れてゆとりよりも安さが重んじられるようになった気がする。職人も減ってしまったしね。だから、組子の魅力と技術を広めたいと思って、自分独自の様々な作品を作って皆さんに見てもらおうと思ったんだよ。
  • 繊細な組子の光と影が美しい
  • サッカーボールからヒントを得た
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普通は和室の障子など、まっすぐな建具に使われている組子なのに、このランプシェードは滑らかな球体になっていてすごく不思議!それに、ランプにあかりを灯すと、壁一面に組子細工の影が映し出されて幻想的でとてもきれい。
齊藤さん :
そうでしょう。この組子の影が好きでさ。
組子を知ってほしいと思って、20年くらい前かな、球体にチャレンジしたの。最初は、百円ショップからおもちゃのサッカーボールを買ってきて、縫い合わせてあるパーツひとつひとつに番号を付けて、それを参考にして作ってみたんだよ。
人の真似をしないで独自のものを作ること、それが大事だと思う。
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展示されている作品を拝見すると、こぎん刺しや津軽塗などの、他の伝統工芸とコラボした珍しい作品がありますね。
齊藤さん :
やったことのない事でも挑戦する気持ちで仕事をする。そして、何かを頼まれた時には「できね!(できません)」ではなく、勉強させてもらう気持ちでやってみる。そのおかげで、同じく伝統工芸に携わる人や、趣味でものづくりをしている人、様々な人に出会うことができた。わたしは、お客さんの作品の『器』のような存在になりたいのさ。謙虚さを忘れないで、組子の木みたいに、人と人も組み合わさっていいものができるんだよね。昔、師匠から「ひとりで腹膨れれば腹壊す」と言われた。ひとりで楽しむのではなく、みんなで楽しんで作れば、それを見た人にも楽しさが伝わるんじゃないかな。
  • 人との出会いから生まれた作品
    (こぎん刺し、津軽塗とのコラボ )
  • 昔の人の願いが込められている
    (麻の葉模様)
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そんな素敵な想いがあるから、齊藤さんの作品はあたたかーい感じがするんですね♪そういえば先日、とてもホットなニュースがありました!齊藤さんが長年作品づくりに打ち込まれてきた功績が認められて、黄綬褒章を受章されましたね。おめでとうございます!
齊藤さん :
今まで出会った方々からもらった力のおかげ。わたしはこの仕事が好きでやっているだけだから、過去には、ある表彰を3回辞退したことがあるくらい(笑)。でも、これからは、業界全体のため、若い職人のためにも、自分が受賞して記事になることで建具や組子の魅力を広めることが大事だなぁと考えたの。協力事業者さんが、私の受賞の記事を事務所の窓に貼ってくれているのを見て「あぁ、よかったなぁ」と思ったよ。
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本当にそうですね!齊藤さんが楽しみながら創作している姿を見れば、若い職人さんや子どもたちにも組子の魅力がしっかり伝わると思います!
齊藤さん :
組子体験に来る子ども達には、作るだけではなく、組子 から何かを学んでもらいたい。仕事は楽しいものだと伝えるために、自分にしかできないことを自信を持ってやり遂げることの大切さを知ってほしい。それから、先輩から怒られても「ありがたい」と思って学ぶこと。
実は、組子の模様の意味からも学ぶことはたくさんあるんだよ。
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組子の模様の意味、詳しく知りたいです!
齊藤さん :
代表的な組子模様の「麻の葉」は、すくすくと真っすぐに育ってほしいという願いが込められていて、赤ちゃんの産着によく使われていたんだ。昔は兄弟が多い家が多かったから、産着を繰り返し着せて、古く柔らかくなったものをさらにおむつとして使ったんだよ。だから、物が壊れたからといってすぐに捨てたりせず、修理して大事に使っていくんだよ、と子どもたちにお話して、「だからお家が壊れたら建具屋に頼んでね」って(笑)。
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昔の人は、物を大切に長く使うために知恵や技術を使っていたんですね。いいお話をしながら しっかりアピールしてるところが面白い(笑)。それでは最後に、津軽傳統組子を広めるために取り組んでみたいことなどありますか?
齊藤さん :
なんもない、なりゆきだよ(笑)。今こうやって注目してもらえるのも自分の力じゃないからね。 今日来て良かったなーとお客さんが笑顔で帰る、子どもたちに楽しんでもらう、これを続けていくことかな。