古津軽 古津軽

KOTSUGARUPERSON

古津軽を紡ぐ人

  • こけしに込めた人間性や温かみを
    感じてもらえればいいなぁ。

    津軽系こけし工人
    阿保 六知秀 氏

中学卒業後から50年以上も津軽系こけしを作り続け、現在は息子さんと一緒に「阿保こけしや」を営む津軽系こけし工人の阿保六知秀さん。内閣総理大臣賞の受賞歴がある凄腕職人ながら、「津軽こけし館」での絵付け体験の先生として、県内外のお客さんから「ムッチー」と呼ばれ親しまれている阿保さんにお話を伺いました。

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黒石は津軽系こけし発祥の地だそうですが、「津軽系こけし」について教えてください。
阿保さん :
こけしは、その昔、木地師(※)がお椀とかを作った余りの木材で作って、子どもへのおみやげとして温泉地に来た湯治客に売ったのが、東北地方で広まったと言われています。ここ温湯では、木地師の盛秀太郎が、親戚にすすめられたのがきっかけで、こけし作りに挑戦し、「津軽系こけし」が誕生しました。絵柄は、津軽藩の家紋の牡丹とかアイヌ紋様、ダルマ絵が特徴で、赤・緑・黄・黒・紫の5色を使って書くのが基本。最近は、その色を混ぜてみたり、自由な色で絵付けしたこけしもありますよ。

※木地師…轆轤(ろくろ)を用いて盆や碗等の木工品を加工・製造する職人

  • 美しい佇まいの津軽系こけし
  • 北海道・北東北縄文遺跡群とこけしのコラボ
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東北に生まれ、東北のみで作られているこけし。その発祥は「温泉地」や「木地師」とも切り離せないんですね。阿保さんは、伝統的なこけしのほか、現代風のかわいらしいこけしや、くすっと笑えるこけしも作られていて、全国のこけし女子から大人気だそうですね。
阿保さん :
伝統だけにこだわっていればお客さんは来てくれない。どんなこけしが若い人の興味を惹くのか、季節やその時話題になってるものを、「これはどうだべな」って考えて作っています。伝統的なこけしが8割、あとの2割は遊び心でお客さんが楽しんでくれるような創作こけしかな。
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遊び心たっぷりのこけしを見て、私の中のこけしのイメージが変わりました!もうかわいくてかわいくて(笑) そしたら、不思議と伝統的なこけしにも興味が湧いてきました。阿保さんのこけしは、温かくてやさしい雰囲気があって癒されます。
阿保さん :
私は目を大きく描くようにしています。ひとみが大きいとかわいく見えるからね(笑)。
今も肝に銘じているのは、師匠の佐藤善二から言われた「普段の生活がちゃんとしてないと、いいこけしはできない」という言葉。こけしを手にとったお客さんに、人間性とか温かみとかを感じてもらえればいいなぁ。
  • こけしを作り続けてきた厚い手
  • 絵付け体験では引っ張りだこのムッチー先生
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今も師匠の教えを大事にされているんですね。技だけでなく、作り手としての心、姿勢も受け継がれていると感じました。
阿保さん :
中学3年の時に、中学校に師匠が指導する「こけしクラブ」ができて入部したんです。たしか私が最初の部員でした。今思えば色んなタイミングが合わさった奇跡的な出会いだった。卒業してから師匠のもとで住み込みで6年、通いで6年、うち4年間は定時制に通いながら修業しました。厳しいけど父親みたいな存在だったな。
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ということは50年以上になるんですね。そういえば阿保さんの手、とてもゴツゴツしてる!
阿保さん :
津軽系こけしは、1本の木材から削って作る「作り付け」って技法で、こけしの職人は大きい木材をるところから自分でやるからね。普段は絵付け作業とかきれいな部分しか見えないけど、木材の加工は力も要るし、怪我はつきものなの。
普通は、修業を始めてからだいたい3年くらいでこけしを作るようになるんだけど、一人で作ったこけしには、たとえヘタなものもこけしの底(裏)に自分の名前を書く。なんぼ忙しくても、自分ひとりで作ったものでないと職人としてニセモノ。最初から最後まで自分が作った証として名前を入れるんです。
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1本の木材から削って作るのはすごく大変そう。でも、こうして津軽系こけしの伝統を引き継いでこられたんですね。阿保さん、今日はありがとうございました。最後に、これからも伝統をつないでいくために、チャレンジしたいことがあれば教えてください。
阿保さん :
引き継いでいくものと、変化していくものがあっていいと思っています。黒石のこけし職人は、伝統の要素を取り入れつつも、それぞれが工夫して創作している。伝統をつなぐためにも、若い人に知ってもらうのが大事。職人が個々にこじんまりと活動するのではなく、津軽も東北各地のこけしも一緒になって、楽しいイベントを発信していきたいですね。こけしに興味を持ってくれる人を増やしていきたいです。