古津軽 古津軽

こぎん

手仕事

Craft

こぎん巡礼(前編)

弘前を中心とした津軽地域

「こぎん」は、「津軽こぎん刺し」や「刺しこぎん」などとも呼ばれ、江戸時代に津軽地方の農村から始まった伝統的な刺し子(手刺繍)の技法です。現代では、着物だけでなく、多彩な色の糸や布でデザインした小物雑貨がとても人気があります。世界中からファンが訪れる、“こぎんの聖地”といわれる津軽地域から、弘前を中心に「こぎんのルーツと現代こぎんの魅力」を巡ります。

紹介している施設は、新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響から、休館等の対応をしている場合があります。訪問する際は事前にご確認ください。

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こぎん01
  • こぎん02
  • こぎん03

1 佐藤陽子
こぎん展示館

100年以上前の
女性たちの技と美意識に想いを馳せて...

「佐藤陽子こぎん展示館」は、こぎん作家の第一人者で、講師でもある佐藤陽子さんが2010年にご自宅に開設した私設の展示館です。ご自身の作品やコレクションだけでなく、こぎんの師匠から託された明治時代の古作とともに、貴重な資料や図案などが展示されていて、国内外から多くのこぎん愛好家が訪れています。佐藤陽子さんは、十代からこぎんに魅了され、昭和にこぎん刺しの振興に尽力した前田セツさん、高橋寛子さんに師事しました。この展示館では、こぎんの歴史をたっぷり体感することできます。

古作こぎん

貴重な古作こぎんで
ファッションショー

展示館では、玄関からたくさんのこぎん作品に出会えます。2階には、明治時代の古作こぎん(野良着)が3種類展示されていて、実際に手にとって羽織ることもできます!明治時代に刺された野良着は、布も手作りとのこと!江戸時代、綿の着用を禁じられた農民たちは、麻(カラムシなど)を自ら栽培して、糸を紡ぎ布地を織り、膨大な労力を費やして衣類を手作りしていました。しかし、布目が粗い麻では津軽の長く厳しい冬は耐え難く、少しでも温かく更に丈夫になるように、綿の糸で布目を埋めるために刺し子を施しました。藍色の麻布に白の綿糸で刺された美しい幾何学模様は、現代でも色褪せることはありません。

  • 古作こぎん02
  • 古作こぎん03

繕ったり、染め直したり
大切な一生もの

衣類が貴重だった時代は、一着を大事に着ていました。生地が弱くなってくると、更に二度三度と重ね刺しして補強しました。写真左は、「二重刺し」と呼ばれるもので、裏返すと当初の模様がわかります。右の写真のバッグは、表面が傷んだため生地を裏返してリメイクしています。また、長年使用して汚れた白糸や生地を藍で全体的に染め直すこともあり、「あばこぎん」とも呼ばれました。「あば」とは、津軽弁でおばあちゃんのことです。

こぎんの裏面

こぎん刺しは、
裏面も作品!
「かちゃにあらず」

『こぎんの先輩たちは、糸始末も気にして、裏返した模様も美しい!裏から見ても立派な作品。』と佐藤さんはおっしゃいますが、佐藤さんの作品も負けずと随所に丁寧な仕事が施され美しい!
こぎんの模様の基本である「モドコ」に「豆こ」という小さな菱形模様がありますが、「豆こ」を裏返すと現れる模様にも「かちゃらず」という名前が付けられています。諸説ありますが、「かちゃ」は津軽弁で「裏」のことで、かちゃらずは、「裏ではない」という意味になります。こぎん刺しは、裏面も立派な作品なんです。

こぎん刺し

こぎん刺しは、
時間の積み重ね

佐藤さんは、外出時でも愛用の針と糸を持ち歩き、ちょっとした時間でもこぎんを刺しています。こぎん刺しは、こつこつと積み重ねた時間が、少しずつ美しい形になります。また、佐藤さんはこぎんの魅力を教えてくれた師匠の想いと技術を本にまとめました。故・高橋寛子さんの図案集で、寛子さんは昭和中期のこぎんが廃れていた時代に夫の高橋一智氏(ご夫婦ともこぎん研究所勤務)と一緒に農村を訪ね歩いて、古い野良着から模様を研究して伝統的でモダンな図案を残しました。実は、10年前の展示館開館当時でも、世間ではまだまだこぎん刺しは、「古くて捨てるようなもの」というイメージでした。近年のこぎん再評価は、先人と多くのこぎん愛好家の努力と時間の積み重ねの賜物でしょう。

  • こぎんのブローチ
  • こぎんのネクタイ

「だんぶりこ」のように
前向きに

写真の緑色の髪留めは、「だんぶりこ(津軽弁でトンボ)」という模様です。トンボは前にしか進まないので、前向きで、勝ち虫として縁起が良いとされているので、お守りとして様々なこぎんの作品に使われています。
佐藤さんは、津軽の普通の人々が暮らしの中で生み出したこぎん刺しという貴重な財産を後世にも伝えるために、ワークショップやイベントも積極的に開催しています。

こぎん書籍

佐藤さんのオリジナルの糸や
こぎんグッズも販売中

佐藤陽子こぎん展示館
入館料/500円
開館時間/10:00〜16:00
※予約を受けて開館します。
TEL. 090-1491-4912
青森県弘前市大字真土字東川199-1
東北自動車道「大鰐弘前インター」より車で約25分
http://youko-kogintenjikan.com/
※展示館でもワークショップも実施しています。
こぎん糸
02
こぎん研究所
  • こぎんの名札
  • こぎんの糸玉

2 弘前こぎん研究所

忘れられていた
こぎん刺しに
光を当てる

「こぎん研究所」は、元々は地域産業の発展を目的とした「木村産業研究所(昭和7年設立)」という財団から始まりますが、実は設立時はこぎんを着る人・刺す人はほとんどいなくなっていました。こぎんに再び光が当たるきっかけは、日本各地の民芸品を調査・収集していた柳宗悦氏が研究所を訪れたことでした。研究所は、柳氏に後押しされて、こぎんを調査すべく農家を尋ね回って話を聞き、古作こぎんを収集して模様集や図案集を作り、模様の元を「モドコ」として定義しました(津軽弁で「もとになるもの」の意)。こぎんの復興に尽力した研究所は、昭和37年に「弘前こぎん研究所」の名称になり現在に至ります。建物も魅力的で、日本のモダニズム建築の旗手、前川國男氏の処女作(昭和7年施工)です。2021年に国の重要文化財に指定されました。

こぎん刺し

モドコの秘密

こぎんは、横方向に奇数の目を数えながら針を刺していくと模様ができてきます。模様の元がモドコで、写真は代表的なもので、現在40種類ほどあり、その組み合わせでできる模様の数は無限大です。モドコは、左右は対称ですが縦長の菱形をしています。手作りしていた布地の縦横の目の違いからくる名残です。
モドコは、名前もユニークで、写真上段左から2つめは豆みたいなので「マメコ」。上段の一番右は瓢箪の器に見えるので「フクベ」。写真3段目左端は「テコナ(津軽弁で蝶々のこと)」、下段左端は「馬のくつわ(別名さかさこぶ)」。※くつわとは馬具の一種で、手綱を付けるために馬の口にかませる金具です。「馬のくつわ」は魔除けの意味も持っています。
モドコは、口伝えや見よう見まねで広がりました。刺し手たちが集まると、ワイワイと品評会が始まり、切磋琢磨していたのでしょう。防寒や補強だけの刺しものに終わらなかった美意識に脱帽です。

こぎんのミニ着物

地域ごとにデザインが
変わる3種類のこぎん

こぎん刺しは、地域ごとに特徴があり、弘前城より西側(岩木地区、西目屋など)で作られた『西こぎん(写真上)』は、緻密な模様が特徴で、重たい炭を背負う肩部分は補強のために縞模様が施され、背中には、前述の魔除けのモドコ「馬のくつわ」が入っています。岩木川より東側で作られた『東こぎん(写真左)』は、太めの麻糸で織られた布に、大胆な柄が特徴。前から後ろにかけて同じ模様を施した意匠が見られます。3筋の横縞が3ヵ所ある『三縞こぎん(写真右)』は、北津軽の金木町一帯で作られました。

  • 生地織
  • こぎんの糸染め

オリジナルの
布地と染め糸

こぎん研究所内にある手織り機は、こぎんを刺すための着物帯を織っています。織り機は、かつて昭和初期のホームスパン(羊毛)に取り組んでいた時代のもので今でも現役です。小物雑貨になる麻布は、縦長の刺し模様になるように特注で契約工場で生産しています。草木染めの綿糸は、ナチュラルな風合で癒されます。

こぎん刺しのセット

100人以上の
こぎんのお針子さんに
支えられて

こぎん研究所には青森県伝統工芸士に認定されたこぎんのプロが在籍しますが、製品作りは100人以上の登録された内職のお針子さんに支えられています。お針子さんは農家さんも多いとか。仕事の依頼は、布地と糸と図案をセットにして渡しています(写真)。
これから製品になる材料ですが、セットになっているとなんだか可愛く感じます。

  • こぎんケース
  • こぎんのバッグ

ひと針ひと針
手で刺している

かつてはこぎん刺しと言えば衣類がメインでしたが、こぎん研究所では伝統を大切にしながら、現代の暮らしに寄り添う新しいアイテムを生み出しています。
ポーチ、バッグ、名刺入れ、巾着、コースター、名刺入れなど、アイテムの種類が豊富だけでなく、布地や糸の色や模様を変えることで、こぎんの表情もより個性豊かになっています。

こぎん帯

こぎん刺しは
仕事着でもあり
晴れ着でもある

仕事着として始まったこぎんですが、藍染めされた麻に、白い綿糸が刺し込まれたこぎんは、目が覚めるほど鮮やか。美しく仕上げられた価値の高いものは、晴れ着としても用いられたそうです。こぎん研究所ではこぎん刺しの帯も制作しています。着物の帯は、目を確実に刺すために熟練の技が欠かせません。
津軽の女性たちは、5歳くらいから針を持ち、お嫁に行く前には一人前の差し手となりました。こぎんは嫁入り道具の必需品で、こぎんの技量は女性の価値をあげました。

こぎん研究所で所長と写真

こぎんを後世に
繋げるのが使命

三代目所長・成田貞治さんは、いつもこぎんを身に纏っています。こぎんを再発掘した初代所長・横島直道さんと高橋一智氏・寛子さん、二代目所長の父・成田治正さんが繋げた財産「こぎん刺し」を次世代へバトンを渡すことだけを考えているそうです。『伝統工芸は、商売にならないと廃れる。』常に様々な販路を開拓して、海外へもPRで飛び回っています。こぎん研究所はアトリエですが、事前に連絡すると見学が可能です。商品も購入できます。

こぎん研究所アクセス
見学無料(要予約)
営業時間/9:00~16:00(12;00〜13:00除く)
定休日/土曜・日曜・祝日
TEL. 0172-32-0595
青森県弘前市在府町61
JR奥羽本線「弘前駅」から弘南バス乗車、
「市役所前バス停」から徒歩約8分
https://tsugaru-kogin.jp/

▼ 体験予約はこちら(津軽なび)
http://www.tsugarunavi.jp/taiken/
「こぎん巡礼」の地図

「こぎん巡礼」の地図

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